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労使紛争

雇用管理の知識

1.労働に関するトラブルを未然に防ぐための基本姿勢

(1)現状
・近年、労働トラブルが急増しており、厚生労働省の全国300か所の総合労働相談コーナーに寄せられた個別労働紛争相談件数は、平成14年度の63万件から平成20年度は約107万件に増加しています。
・労働者側の権利意識の向上や、インターネットを中心とした情報インフラの整備等がその背景にあり、今後もまだまだ増える見込みです。
・就業上の小さなルール違反や、職場の秩序に影響を与える規律の乱れも徐々に進行するなど、職場のルールが守られなくなってきたことによる職場の雰囲気の悪化が見られます。
(2)対処策
・労働トラブルや規律の乱れを未然に防止し、労使が安心して職務に専念できるような職場環境を構築するためには、職場の憲法であり、ルール集である就業規則を整  備、周知し、労使双方が日常的にその内容を参照し、活用することが最も重要です。
・管理職間における規律意識の現状は、同レベルではありません。いつでも、誰が管理職であっても維持できるようなルールや基準、仕組みを定めているのが就業規則です。
・職場規律の確保は、何も経営者が得をするというものではなく、職員にとっても働きやすい職場の重要な要素です。
・働きやすい職場の環境作りのためには、就業規則の整備、周知、厳守が最低限の必要条件です。

2.実際の雇用管理について

(1)正規雇用労働者関係

1)年休と時季変更権について
・時季変更権とは、労働者が残余日数の範囲内で、取得時季を指定して年休を請求したときに、請求された時季に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場  合」に、使用者が他の時季に変更することのできる権利です。
・「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、裁判例等によれば、その労働者の所属する事業場の事業規模、内容、その労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、業務量、代替者の確保の困難度等諸般の事情を勘案してケースごとに判断すべきとされます。
・労働者の年休は、法律で認められた権利であり、できる限り、労働者が指定した日に休めるよう、他のメンバー同士で協力し合う、他の部署に応援を頼む、代替者を手配するなど、様々な配慮をすることが求められます。
・単に「忙しいから」という理由だけで時季変更権を行使することはできません。日頃から対策を講じておくことが必要です。
2)業務の始業と終業、休憩時間の変更について
・利用者サービス向上のための業務見直し等、臨時的な必要性に応じて始業・就業時刻の繰り上げ変更や繰り下げ変更をすることがある場合は、就業規則にこの変更権について定めておく必要があります。
例えば、「始業・終業の時刻及び休憩時間は、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。」
・その場合においても、事前に労働者に周知するなど、労働者のワーク・ライフ・バランスの確保に配慮する必要があります。
3)時間外勤務について
・厚生労働省が定めた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13・4・6基発339号)で、使用者が始業・終業時刻等の労働時間を適正に把握するための方法として、【1】使用者が自ら現認することにより確認する。【2】タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録する、のいずれかによることを原則としています。
・客観的な記録を伴わない自己申告制や管理者による把握といった方法は、管理者の恣意的な報告や労働者自らの過少申告によって、残業時間が実際より少なく把握される結果になりがちです。
・労働時間の適正管理には、現時点ではタイムカードかICカードが最適です。
・法定労働時間は、原則として1週40時間、1日8時間ですから、変形労働時間を採用している場合などを除き、法定労働時間を超えて働かせるためには、時間外・休日労働の労使協定(いわゆる36協定)の締結・届出と割増賃金の支払いが必要です。
・上司としては、残業の必要性をよく説明し、労働者の理解を得る努力や、残業がある場合は早めに伝えるなどの配慮が必要です。
4)休憩時間について
・休憩時間とは、労働者が労働から完全に解放され、自由に利用することができる時間です。
・休憩時間は、【1】労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えること【2】労働時間の途中に与えること【3】一斉に与えること【4】自由に利用させることが必要です。
・労働基準法(以下「労基法」)では、休憩を一括継続した時間で付与することまでは義務付けていません。休憩時間を分割して与えることも可能です。
・実労働時間8時間を超えて残業させても、昼間に1時間の休憩時間を与えていれば、その他に休憩時間を与えなくても労基法には違反しません。一昼夜交替制においても、法律上は労働時間の途中において労基法に規定する休憩を与えればよいとされています。(昭和23・5・10基収1582号)
・しかし、昼間に休憩を与えてその後まったく休憩を与えないということは、労務管理上好ましいことではありません。したがって、残業が深夜にも及ぶようなことが当初から判明しているようなときには、正規の就業時間後ある程度の休憩時間を設けるといったような工夫も必要でしょう。
5)パワハラ、セクハラ等について
・セクハラやパワハラ等のハラスメント(嫌がらせ)は、個人の人格や尊厳を傷つけることになるだけでなく、労働者のやる気をなくさせ、優秀な人材を流出させることにもなるので、厳重に注意指導を行い、適切な対応を行う必要があります。
・ハラスメントについて過剰に反応すると管理職が職場で発言できなくなってしまうという意見や、上司から部下に対し注意指導するのは業務上当り前で、それができないのであれば管理職としての任務が果たせないという意見もあります。
・ハラスメントになるかどうかは当事者間の人間関係によるところが大きく、第三者からは見えにくい、発見しにくいという特性があります。
・職場におけるハラスメント対策としては、どのような発言や行動、職場環境が問題となるのかを、具体的な表現を用いて労働者に注意を促すことが必要です。
・ハラスメントに対する経営者の姿勢や考え方を示し、ハラスメントやいじめを許さない職場であることを宣言して問題の未然防止を図るとともに、管理職も職員もハラスメントに関する基本的な知識を持つことが不可欠です。
6)業務遂行能力が劣る労働者、利用者への接し方等が改善されない労働者への対応について(注意指導を行う際の注意点)
・まずは、何に対して注意指導するのかを明確にすることが必要です。経営者が定めているルールや求めている行動基準に対して、それが守られていないこと、基準と実 際の行動とにギャップがあって職場や業務に影響を及ぼしていることを明確に示します。
・注意指導にあたっては、事実確認が重要です。他の労働者からの情報や、利用者などからのクレームや苦情等客観的な事実を集めて整理しておくことが必要です。
・注意指導をするタイミングは、基本的に問題のある行動があったときにできるだけ速やかに行うことが重要です。時間が経てば経つほど注意指導の効果は薄くなります。
・最初に注意指導すべきところで、注意指導せずに機会を逸してしまうと、同様の問題行動が起こったときに注意指導しにくくなり、その回数が増えれば増えるほど注意指導ができなくなってしまい、そのうち問題行動が問題ではなく当たり前の状態になってしまいます。
・注意指導を行ったときは、その都度記録を作成し、残しておきます。

(2)有期雇用労働者関係

1)雇入れのための労働条件説明、雇入れ、雇入れ期間終了時までの注意点
・有期雇用労働者についても労働基準法が適用されます。
・有期雇用労働者を採用する場合においても、労基法第15条第1項に従い、労働条件の明示が必要です。有期雇用労働者については、雇用期間を明示するとともに、更新の有無、更新する場合の更新基準についても明示が必要です。
・有期雇用労働者の雇用条件については、正規雇用労働者の就業規則を安易に準用すると、休職や賞与、退職金のように有期雇用労働者に対する適用を予定していない事項が適用されるとみなされることがあります。
・有期雇用労働者の雇用契約が繰り返されてきたなどの事情により、当該有期雇用労働者が雇用の継続に合理的期待をもつに至ったと認められる場合には、使用者による更新拒否が制限され、有期雇用労働者を引き続き雇用する義務が生じることもあります。
※「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート労働法)」による規制
・労基法による書面明示事項に加え、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無についても文書の交付等による明示が義務化されています。
・有期雇用労働者の職務内容(業務内容及び当該業務に伴う責任の程度)、契約期間、人事異動の範囲などに応じて、正規雇用労働者との均等待遇が要請されることがあります。
・正規雇用労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事項を、当該募集に係る事業所において雇用する有期雇用労働者に周知しなければなりません。
・正規雇用労働者の配置を行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を、当該配置に係る事業所において雇用する有期雇用労働者に対して与えなければなりません。
・一定の資格を有する有期雇用労働者を対象とした正規雇用労働者への転換のための試験制度を設けること、その他正規雇用労働者への転換を推進するための措置を講じなければなりません。
2)有期雇用労働者をどのように活用するか
・少子高齢化が進み、労働力人口が減少していくなか、近年ではパートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員などの有期雇用労働者が職場でかなりの割合を占め、我が国の経済活動や企業活動の重要な役割を担っています。これらの有期雇用労働者は、今後とも増加することが予想され、携わる業務上の役割も重要度がより高まっていくことは間違いありません。
・正規雇用労働者とは異なる雇用条件や多様な就労形態を有する有期雇用労働者を就労させ、十分な能力を発揮してもらうためには、一定のルールのもとで規律正しく働かせることが必要です。そのためには、職場の基本的なルールや有期雇用労働者に期待している役割を明確に示し、守らせることが重要です。
・現実には使用者側も有期雇用労働者本人も、臨時的・一時的な雇用だということで安易に考えており、職場のルールについてほとんど説明されておらず、理解もしていません。そのため問題が起きやすく、トラブルに発展するケースが多いのです。
・有期雇用労働者に対しても正規雇用労働者と同様にきちんと、内容によってはより詳しく職場のルールを伝えておくことが重要です。その場合においては、まず管理職がきちんとした姿勢をとり、あるべき職場規律の模範を示して、指導教育を繰り返し実施していくことにより、有期雇用職員の積極的活用を図ることが可能となるのです。